光と風と時の部屋

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小説(サイコホラー)『平成・酒呑童子』⑤

「平成・酒呑童子」5

部屋に戻った。
(そんな…私、共犯になるなんて、やだよ……。)
 香里は、自分の部屋に行くと、気を紛らわそうと、読み掛けの少女小説を読み始めた。
 食欲が出なかったので、香里は、本を読み終えると、そのままベッドに潜り込み、寝てしまった。

「ただいま。」
 悠子は、帰ると台所へ行き、冷蔵庫で冷やしてある烏龍茶を一杯飲むと、コップを洗い、戻した。そして、ルーズソックスを脱ぐと、それを脱衣室へ持って行き、洗濯機の中に入れた。
(お母さんは、買い物かな?)
 悠子は、部屋に戻ると、私服に着替えた。そしてショーパンを穿き、黒いオーバーニーソックスを穿いた。
(コンビニへ夜食でも買いに行こうかな、と。)
 悠子は、近所のコンビニへと向かった。
(え?)
駐車場にいたのは、やはりあの男だった。
「やあ。そのスタイル、いいね。似合ってるよ。」
 そう言うと、男は商品の入ったコンビニ袋を提げて、去って行った。
(そんな…あの人、焼却されたんじゃ……?)
 悠子は、呆然としたまま、男が見えなくなるまで見送っていた。

「ふう。ただいま。」
 美智は、帰ると台所へ行き、水筒を取り出して残ったお茶を飲み干した。そして自分の部屋に戻った。
 美智は、靴下を脱ぎ、長袖の上着ジーパンに着替えた。そして、センター試験の生物学の問題集を本棚から出して、ノートも出して、勉強を始めた。
(非科学的な事は、出来れば信じたくないけど……。)
美智はそう考えた。
 キッチンで、いつもよりお箸の進みが遅い美智を見て、母は心配して言った。
「美智。どうしたの?元気ないじゃない。」
「ううん。何でもない。」
「そう。なら、いいけど。あ、もしかして、勉強疲れじゃない?少しは羽目を外してみたら?試験まではまだ日があるんだし。」
「うん。」
「あなたは、趣味でも色々と難しい本を読み過ぎてるんじゃない?医学博士としているお父さんも言ってたわよ。偶にはコメディ映画や、娯楽小説、娯楽漫画を読んで気休めする事も大切だ、って。難しい本ばかり読んでいても頭が固くなるんだって。『娯楽小説も娯楽漫画も、医学や生物学、物理学、純文学も、それぞれベクトルが違うだけで、同等の価値も持っているんだ。』ってね。」
「ベクトルが違う…だけ…?」
「そう。医者と物理学者と文学者と、ファンタジー作家と推理作家と、また、漫画家と、どれが一番偉いか比べるかなんて、愚かな事なんだって。お父さんみたいな医学博士とか、お医者さんや看護師さんだって、確かに理数系の学問もするけど、患者さんの気持ちをよく考えるには、柔軟な心も大切なんだって。すぐ怒る患者さんや自暴自棄になる患者さんがいても受け入れられる素直な気持ちも大切なんだってね。」
「成る程。」
「私もお父さんも、コメディ映画やラブロマンス映画だって、また、ヒューマンドラマも、好きなのよ。」
「そう。」
「はい、はい。ここまで。さあ、早く食べないと、特製シチューが冷めるわよ。」
「うん。」

 この日、崇子は、レンタルショップに行き、DVDが並んであるドラマコーナーや、洋画コーナーでタイトルを斜め読みするように見たが、借りる元気はなかったため、そこを去った。タイトルを見ただけでも気が遠くなるような、立ち眩みがするような感覚に陥ったようだった。
(「恋におちて」か。お母さんが昔、好きだった映画だな。見てみようかな。ううん。今日はそんな気分じゃないから、やめとこう。)
 結局、何も借りずに店を出た。
(映画を何十本、何百本と見たとしても、この世の全てが分かるわけじゃないよね。そもそも、確実な答えなんてないかもね。どんなに偉い学者さんだって、世の中の全てを知り尽くしてるわけじゃないだろうし。「恋におちて」を見ても、所詮は都合の良い物語だとしか思えない。恋は、頑張ったから絶対に実るとは限らない。)
「努力って、必ずしも報われるとは限らない気がする。」
と声に出して独り言を言う。
とその時だった。

「そうだよ。良い事をしたから、良い報いがあるとは限らないよ。」

 後ろで声がした。
「誰?」
 振り向くと、やはりあの男だった。
「やあ。」
 男は微笑んで手を上げると、また去って行った。
(まただわ…何…?まるでストーカー……?)
 崇子は、急ぎ足で家へ帰った。
「ただいま……。」
「お帰り。姉ちゃん。」
出迎えたのは、崇子の弟だった。学生服に小六のバッジを付けている。
「あら、隆。ただいま。」
「姉ちゃん、何か最近、元気ないよ?どうしたの?」
「何でもないよ。」
「勉強疲れ?なんてね。姉ちゃんは俺より勉強しないし。」
「うるさいなあ。」
と、崇子は軽く笑いながら隆の首を、右腕で捕まえると、左手でぐりぐり攻撃をした。
「痛いよ、姉ちゃん。」
「隆。あんた、学校から帰ったのなら、ちゃんと服を着替えなさいよ。」
「姉ちゃんは、すぐ着替えるけど、だらしないとこ、あるじゃんか。この間、リビングのソファに脱いだ靴下を置きっぱなしだったじゃないか。納豆臭かったんだぞ。」
「ふん。どうせ私は、足臭いよーだ。お父さん似だもん。体臭だけでなく、美人なのも、イケメンであるお父さん似よ。」
「おいおい。お母さんに失礼じゃないか。」
「べー。」
「勝手にしろ。べー。」
隆はリビングへ行き、崇子は自室へ行く。
 崇子は、ベッドに座ると、靴下を脱ぐ。そして、徐に匂いを嗅いだ。そして、靴下脱ぎ立ての、素足の匂いも嗅いでみた。
(本当だ。まるで納豆だな。臭いな。やっぱり、プラス面があればマイナス面もあり、か。世の中、やっぱりプラスマイナスゼロに出来てるのかもね。ある漫画で読んだ話だけれど。)

 香里は部屋で、ある本を読んでいた。シンデレラとかの、童話の続き話をについて書いた本だった。
(シンデレラと言う話も、最後は残酷なのね。義理の姉が、ガラスの靴に合わせようと切ってしまうなんて……。でも、やっぱり、散々シンデレラを虐めた報いかな?ピーターパンのフック船長も、結局は最後、鰐に食べられるし。子供向けアニメでは、残酷だからそれが書かれていないだけね。)

 悠子は、リビングで、古い洋画を観ていた。「アリゲーター」である。
(うわ。綺麗なメイドが、鰐に食べられてる。残虐ね。もっと、悪い奴が沢山食べられたらいいのに。)
「悠子!床に靴下を脱ぎっ放しにしないの!脱いだら洗濯機の中にすぐ入れなさい!」
と、母が言う。
「はぁい。」
返事しつつも、悠子は床にあったルーズソックスを拾っただけだった。両手に持ったまま、洋画の続きを観た。
(そう言えば、この前に観た「クロコダイル2」でも、可愛いスチュワーデスが、巨大な鰐に食べられてたな。可哀想に……。)

 もう十一月の半ば頃だった。この日、四人は気晴らしに、学校帰りにまたカラオケに行っていた。
「アイウォンチュー♪……アイニージュー♪…頭の中……」
悠子が、熱唱していた。
「ん?何か、臭わない?納豆に酢を混ぜたような……」
崇子は言う。
すると、隣にいた香里が言った。
「ごめん。多分、私の足だわ。私、ここ一週間ぐらい、お風呂に入ってないから。」
「嘘―っ!マジ!?それ、ヤバくない?靴と靴下を穿いてても、臭って来てるわよ。香里。」
「うん。私の所、お父さんもお母さんも普段は家にいないから、お風呂入らなくても何も言われないから。」
「そうだったわね。香里は両親とも大企業に勤めてるもんね。それで、何?やっぱり、あの男の事が、気になるの?でも、警察は動いてない感じよ。変だけど。」
「うん。そうだね。」
「私達、まるでヤクザ?」
と崇子は笑う。
「崇子。やめて。」
スマホに目を向けたまま、美智は言う。
「だって……美智も、変だとは思わないの?」
「思うわよ。でも、私達、警察には追われてないだけ、助かったと思わないと。」
「うん。」
崇子は、あの手紙の事は、美智達には話してはいなかった。
「今日は、金曜日だから、明日、明後日とゆっくり出来るわね。」
と崇子は皆に言う。
「まあ、そうね。でも私は、理系の大学に進んだ時のために、理工学の基礎を押さえるよう専門書を読むわ。そしたら大学に入ってからも楽だから。」
「真面目ね。いや、生真面目ね、美智は。」
「そうそう。でも人生はもっと楽しまないと。」
と悠子。「さあ!今日はもうちょっと歌うぞお!次は、美空ひばりでも行こうかな、と。」
「あら。悠子も渋いところあるじゃん。」
と崇子は言う。
「まあね~。」

 四人がカラオケ店を出た事には、夜の七時を回っていた。
「平日のフリータイムは、やっぱり安いね。ギリギリまで歌っちゃったな、今日は。」
「うん。」
と言う、崇子の背後には、何やら人影があった。
「え?……う……。」
と崇子は片手で目を覆いながら、地面に横たわった。
「きゃ!」
と香里は、地面にうつ伏せに倒れた。
「眠い…。目が開かない…。」
と言いながら悠子も倒れた。
「本当。何か、これは、ガスね。駄目。私も、眠いわ…猛烈に…。」
と、最後に美智も倒れ込み、眠るように意識を失った。
 何者かが、スプレーのような物で、四人にガスを吹き掛けたのだ。また、口から吐いたのか、四人には分かる由も無かった。