光と風と時の部屋

どうも、こんにちは。m(__)m(^^)/四国在住の多趣味人です。中でも主な趣味は、読書や創作、運動、筋トレ、書道、カラオケ、音楽鑑賞等です。「健康オタク」ともよく言われます。こちらでは、日記や随筆やポエムやイラストの掲載、お勧めのグルメ紹介、時にハウトゥー記事やトレンド記事、また様々な役立つ商品の紹介等を行なって行きたいと思います。極力の極力で、皆様にとって、愉快で楽しめる且つ、為になる記事を書いて行けるよう、努力致します。どうか宜しくお願い致します。

短編小説『慈悲と食通』

『準備は出来た?』
『うん。出来てる。』
『じゃあ、今から、午前九時半にA駅で待ち合わせでいいかな?』
『オッケイ。今からでも出たら間に合うから、行こう。俺はもう出るね。』
『うん。私も。』
 スマホでのラインのやり取りを終えると、スマホと財布と通帳をバッグに入れた。
 K子は大きなバッグを下げてマンションを出た。自転車で近くのA駅へと向かった。
 バイパスの交差点を渡り、裏道に入り線路を渡り、角を曲がる。駐輪場に自転車を停めると、駅の入り口前には背の高い細身の男性が立って待っていた。
「お待たせ。S夫君。待った?」
「まあ、3分程度ね。」
「少し待たせてゴメンね。じゃあ切符買おうか。」
2人は切符を購入すると、駅のホームで待つ。スーツ姿のサラリーマンやOL、ブレザーを着た高校達が何人かベンチに座っている。
「さすが平日だ。この駅は、まあまあの人だな。」
「そうね。でも向こうはもっと多いかも。」
「君も、本を出す事が決まったんだろ?」
「うん。」
「おめでとう。」
「ううん、ありがとう。」
アナウンスが鳴り、漸く電車が来た。二人は乗り込む。
「やっぱり電車内は多いね。」
「まあなぁ。普通だとみんな会社や学校へ行く時間だからねぇ。」
長椅子に何とか座れた二人は、小声で話す。
 電車からは広がった田園風景が見える。
「ふむ。やはり、さすがは地方だ。」
「要するに、この辺は特に田舎ね。」
「うん。でも俺達がこれから今日向かうのは、こことは正反対の都会の中心部だからね。」
「そうね。一番都会のT都、行くのは何年ぶりかだわ。」
「俺達も日々、仕事人間みたいになっていたもんな。」
「うん。それもダブルワークで頑張って来たもんね。」
2人は周囲の話し声や雑音は気にせず柔和に話している。
「よし、次で乗り換えだ。D県に着いたら、次は新幹線だな。」
 2人はO駅で降り、電車に乗り換えた。
 長椅子に2人程は座れそうなスペースが空いていたが、後ろから老夫婦が乗って来た為、2人は席を譲る事にした。
「あ、良かったら、この席どうぞ。私達は吊り革に掴まって立っておくので。」
とS夫は腰を低くして頭を下げながら、にこやかな表情で右手の手の平を上にして差し出すようにして老夫婦に言う。
「はい、どうぞどうぞ。」
とK子も笑顔で言う。
「そうですか。どうもすみません。」
と背広姿の高齢の男性は言う。
「すみませんねえ。ありがとうございます。」
と女性側が言う。この人はスーツではないが、清楚な服装にスカート、パンプスを履き、杖を持っている。
「いえいえ。」
S夫もK子も微笑む。


 2人は電車から新幹線に乗り換えると、車内販売で購入した大サイズの弁当を食べ、緑茶を飲む。
「もう少しかな。」
とK子は言う。
「うん。まあ後一時間弱ぐらいかな。」
とS夫は答える。
「私達あの日、地元の大学の同じ学部で知り合って、今はこうして2人旅。きっと何かの縁があったのよね。」
「そうだね。俺もとても嬉しいよ。」
 K子とS夫は、地元の国立B大学で知り合った仲だった。
「あの日、俺とK子が経済学部のオリエンテーションで出会ってから、ね。」
「うん。」
「経済学部での講義や、勉強、試験レポート、やりがいがあったよな。」
「そうね。文系の学部では法学部の次に難しいって言うもんね。手応えあったね。ふふ。」
とK子は答える。
「大学やバイト先で学んだ事が、やっぱり仕事でも活かせたし、俺達は今は会社員ではないけど、あれからこうしていられるまでになったのも、俺達の学んだ知識や経験が何とかうまく活かせたのかも知れないね。これからも俺達、これで食べて行けるよう、頑張りたいけどな。」
「うん。後は運やタイミング、また時代も良かったのだと思う。」
「そうだな。お、もうT都に着くぞ。どこでランチするかは、降りてからゆっくり決めよう。」
 そして、T都の駅に着いた。
「多少は歩くか、またバスやタクシーもあれば、俺達にはお金もあるしな。気楽に行こう。」
「そうそう。」
と2人は笑顔で頷きながら話す。そして駅を出た。
「おお、やっぱり都会だねえ。」
「そうね。こんな凄い雑踏、久し振り。本当、凄い人ね。」
「ランチは新幹線で食べてしまったから、カフェ行ってゆったりする?」
「そうだね。じゃあ先ずは、個人経営らしいカフェに貢献しようか。私、パフェでも食べようかな。」
「俺は店に入って考えるかな。」
 2人が駅から通りを少し歩くと、すぐにカフェがあった。
「よし。ここに入ろうか。」
「賛成。」
2人は、洗練された感じのカフェの外装にもひかれたように中へ入る。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ワイシャツに黒ベストの男性が言うと、ブラウスに黒ベストの女性も続けて言う。
 2人は2人掛けの席に座った。
「個人経営みたいだけど、とてもきちんとした所だね。」
「だね。高級店なのかも知れないね。」
とS夫は答える。
「注文どうする?俺はこの一番高そうな三段重ねのホットケーキとエスプレッソにしよう。」
「じゃあ私は、このパフェの中で一番高いパフェと、アップルティーにしようかな。」
「注文、決まったね?」
「うん!」
「呼ぶよ。すいませーん!」
とS夫が店員を呼ぶ。


「お待たせ致しました。」
約十五分後、料理がカートに乗せられて運ばれて来た。店内は変わらずざわついている。
「わあ、凄いボリューム。私、食べられるかなあ。」
「食べられなかったら、残りは俺が食べてあげるよ。」
「ありがと。でも、太らないでね。」
「ホテルへ行ったらスクワットとか腹筋とか、いつもより多めに筋トレするから平気だよ。」
「そうね。S夫は毎日筋トレしてるもんね。私もジムは行くけどね。」
「ああ、俺達に毎日、スマホやパソコンの他、読書や筋トレは欠かせないもんな。」
「だよね。…わ、これ美味しい。疲れにも脳にも良さそう。」
「ホットケーキも、バターや蜂蜜、生クリームの味が効いていて、美味いな。…ふう。エスプレッソはやっぱり、目が醒めるなあ。」
「うん。」
「はは。」


「ふう。もう午後5時過ぎか。」
「食べた後、結構カフェで長居したよね。」
「ああ、ざっと4時間は居たな。お冷やで繋いだけど。」
「メニューやお店の外装や内装の写メも撮ったしな。」
「うん。これでまた、ブログやSNSで食レポ出来るね。」
「当然。ブログの読者数やSNSのフォロワーが減らないよう、知名度を上げないとな。」
「あ、居酒屋だわ。外装がまたお洒落ね。ここにする?」
「そうだな。今日は手っ取り早くしよう。」
 そして2人はお店に入る。
「いらっしゃいませえ!」
「いらしゃいませっ!」
 アルバイトらしい若い女性店員に次いで、厨房の方に居る男性店員が元気に声を出す。
「座ろう。今日はテーブルにしようか。」
「そうね。」
「高い物をじゃんじゃん頼んで行くよ。」
「私も。」
2人は、一番高い鍋料理に、骨付き鳥の親鳥を頼み、焼き鳥ゴージャスセットに、生大を注文した。
「このお店のすぐ傍に、確かホテルはあったよね?」
「うん。歩いて行ける距離の所に、何件かホテルは並んでいたよ。」
「じゃあ、安心してお酒も飲めるよね。」
「そうさ、そうさ。」
 そしていつの間にか、二人は生大をそれぞれ2回も注文していた。S夫は、ふぐのひれ酒も飲んだ。
「うう、ここまではさすがに、酔うなあ。」
「そうよねえ。当たり前ぇ。でも、私達はニンニク卵黄や亜鉛のサプリ飲むから、あまり悪酔いはしなくて済むよね。」
「おう。あの日、地元の居酒屋の店員さんが教えてくれたからね。それらを飲んでると、酒飲んでも翌日はまだ楽だってね。」


 翌日、2人は午前十時にホテルで朝食を摂ってからホテルを出て、映画館へ行って映画を観る。
 その後、客引きで女の子が必死になっていたメイドカフェへ入り、また次は近くのこぢんまりしたカフェに入る。
そして夜はまた違う居酒屋へ行き、お店の外装や内装、メニューの写メを撮り、夜にホテルでそれぞれ、ブログやSNSに写メもアップして書き込み、ブログ上とかで食レポを行う。   
次の日はまた昼のランチはまた違うカフェに行き、銭湯とかに行ってみたりする。銭湯の事も、ブログ等でアップ。夜は居酒屋へ。


 2人がT都に滞在して、もう8日が経っていた。
 都会と言う事もあり、また色々あって2人はマスクをしている。街中は、外も中もマスクをした人達で溢れている。
 T都に来てから8日目の夜だった。バスに乗って少し移動し、新しい居酒屋に来た。この居酒屋は比較的、小さかった。他にお客は、テーブルに3人いたぐらいだった。
「よし、今日はカウンターにしようか。」
「うん。」
「はい、いらっしゃいませ!」
と中年風の体格がしっかりした、眼鏡を掛けた男性店員が言う。マスターのようだ。
「ご注文をどうぞ。」
 2人はまた様々な料理を高い者から順に注文する。そして食べながらマスターと話す。
「お2人は、仕事は何をしてるの?」
マスターが聞く。
「あまり大きな声では言えませんが……あのう…僕達は元会社員でしたが、ノウハウを学んでコツコツしてからは、ブログライターしてます。僕もこの人も、アフィリエイトで月にそれぞれ三十万程、稼いでます。」
とS夫はK子に向かって片手を広げて言う。
「はい。私達、2人してカップルで一緒にブログライターです。」
「へえ。そうなんだね。ブログでの成功者なのか。そうかそうか。でも、今この新型Cウイルス禍の中、よくやるね。」
「はい。感染には気を付けながら、こうやってブログでは商品とかの紹介他、間で知名度上げたり食レポであちこちのお店の評判を更に上げてあげたりしてるんです。地方から来ています。」
「へえ大したもんだ。でもね、このご時世だ。君達が無理して来る所ではないよ。感染したら洒落にならないからね。早く帰って自粛しなさい。ね?」
「あ、は、はい。」
「分かりました。」
 ここで2人の食レポ旅は一旦、幕を閉じるのだった。
「新型Cが落ち着いたら、また来よう。K子。」
「うん。」
   

                                                                                                                                            了