随筆「料理」 - 光と風と時の部屋

「料理」とは何か。それは一般的な意味としては、食品や調味料を混ぜ合わせて、食品を作る事を言う。例えばオムライスとは、炊けた白米に、野菜や肉等を混ぜたりして、ケチャップを入れて一緒に炒め、焼いて平たくした卵を上に乗せて、完成だ。また人によっては、更にそのオムライスの上にケチャップもかけて、完成となるだろう。
　そして、料理に正しさや、答えはあるのか？実は、あるようで、無いのだ。そう、料理に確実な正解は無い。
　料理図鑑や料理本には、きちんとした元来のレシピが載ってはいるが、それは飽くまでも、デフォルトだ。デフォルトとは、コンピュータで言えば、予め設定された標準な状態であるものを言う。
　しかし様々な飲食店巡りをしてみると、個人経営の無名店」から有名店まで、同じような長続きしている店舗でも、お店によって料理メニューが異なる。
　それは、元ある物なら、本に書かれた基本的な料理のレシピ、扱われる具材がある。そしてその飲食店のオーナーシェフにとってのデフォルトとは、料理学校や、その者が若い頃に修業した飲食店で作られていた料理達だ。そのメニューはその見習いにとってはデフォルトになる場合がある。それは、今後そこに雇われの身として生涯働くのではなく、いつか自分自身の店を持ちたい場合に、そこでデフォルトから作られて行くのが、『オリジナル』だ。
　そもそも、料理人にせよ作家にせよ、機械やコンピュータの開発者や研究者にせよ、発明家にせよ、完全なオリジナルは有り得ないからだ。完全なオリジナルは、人類ならアダムとイブが、元ある本当のデフォルトのようになる。
そこから、アダムやイブは体内、心内に様々な具材を得て、次なる生命が料理されるように創られて行く。アダムとかイブ以前に、生命は母なる海から生み出され、祖母なるものは地球、更にその子孫は、広大で深遠なる宇宙となる。そして月や太陽は宇宙の大切な内臓のようなものになるのだろう。
　そう。「料理」とは、更なる「料理」を創り出し、そこからまた新たに「料理」がなされて行く。料理された食品も、その料理人の魂が宿ると言われる。即ちオリジナルからデフォルトが創られ、そのデフォルトから、その者ならではのオリジナルがまた創られるのだろう。
　これは我々が日頃使用する、言語、言葉もそうだ。私達日本人なら、元ある日本語枠の中でこそ、自由に言葉を扱えているのだ。
　「料理」とは、言語の他「創作」にも似ている。それは今でこそ認められた作家の方々でも、自分の親となる作家を持ち、他者の作品が冷静に読めて理解も出来て初めて、立派な小説や随筆と言う作品が書けるようになっている。
　よって、料理店の店主が言う「私しか知らない、この店の料理の仕組みと味」があるのは、元に学んだレシピより幾つもの具材を粘土のように捏ねては捏ね回し、その者にしか知らぬ味を出している。
料理とは創作でもあり、粘土細工のようでもあるのだ。　　

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