光と風と時の部屋

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短編怪奇小説「隣室の霊」






 昔々、ある村外れに小さな古い一件家が建っていた。家の横には用水として使われる細い川が流れ、辺りは林が多く、田んぼが幾つかあった。近い将来にはこれを殺風景などと呼ぶ者もきっといるだろうが、今の時代の人に言わせれば、「なかなか趣(おもむき)のある景色だ。」「空気が済んでいて落ち着く場所だな。」等と言う風流人や詩人も勿論いるのである。
 そしてその家には、七十を超える老人が二人ひっそりと暮らしていた。子供は出来ておらず、五十年程も昔から夫婦共に田んぼや野菜畑等、農業を営んで元気に生活していた。
 二人共穏やかで優しいお爺さんとお婆さんだ。
 そしてある日、朝起きるとお爺さんが、何かいつもと違った空気を感じ、いつもより早起きして、湯飲みに組んだ井戸の水を一杯飲むと、おそるおそる隣の座敷を覗いてみた。
「そう言えば最近は、わしも婆さんも座敷へ入っておらんかったのう。座敷の方から、何か冷たい空気が、流れて来るようじゃが……なんじゃろな?まさか……?」
お爺さんは苦笑しつつ、そっとドアを開ける。
「ん…やっぱり誰も…うむむ…何じゃ……!?」
ここでお爺さんが見たモノとは……。
「ち、ちょっと婆さんや!」
御爺さんは小声で御婆さんを軽く揺すって起こそうとする。
「何です?爺さん。まだ眠いのう。起きるのはもうちょっと遅くても構わんじゃて?お腹空いたなら、ご飯あるじゃろ……。」
「いや、それどころじゃないんじゃ。ちょっと隣の座敷の方を覗いてみ!あれは何じゃ?」
「へ?座敷がどうかしたんかいな?」
こう言ってお婆さんはよっこらしょっと、あいたた、と言いながら起きる。そして奥の古びて傷んだ扉へと向かった。
「ひ、ひゃあ…何なんじゃ、あれは一体………!?爺さんや。」
「じゃろ!わ、わしも知らんのじゃ!いつからおるのかも…………。」
二人は身体を震わせながら顔を向け合った。
「お、恐ろしや。泥棒?いや、そんな感じはせんな。うちには盗める物はそう置いておらんし……。」
とお婆さんは握った両手を胸の前に出して更に震え出した。
「おっかねえのう。何者じゃろうか?第一、何も盗られてはおらんようじゃしのう。泥棒ではないとしたら……。いやしかし、あの白い着物…長く傷んだ髪…それから妙に痩せておる。」
「爺さん……まさかあれは……。」
「顔は青白いし、朧気に見えるようじゃし、生気が感じられんな。あれは、あれは、……幽霊かも知れん。……ひいい、大変じゃ。」
 そこにいた真っ白い着物を来た青白い顔をした人物は見るからに幽霊らしかった。座敷の奥にある古い鏡台を見ながら、ゆっくりと長い髪を説いていた。髪も殆ど白髪になっていた。
「か、髪の長い、ろ、ろ、老婆の霊のようじゃが……。いや明らかにそんな感じじゃ。」
「爺さん、わしゃ恐くて堪らんわ。わしらこのまま呪われるんかいな?どうするんじゃてえ?」

 すると、横向きだった老婆の霊らしき者は、くるりとこちらを振り向いた。
「ん?何じゃ?もうお目覚めか?」
老婆の霊は言う。

「ひい、こちらを向いてわしらに何か言って来たぞい!あれは、きっと間違いなく霊じゃろう。もしや悪霊かも知れん。婆さん、釘くぎと金槌かなづちを、納屋から持って来てくれ。」
「どうするんじゃいな?爺さん。」
「ええから、早よう持って来てくれ。まだまだ使える筈じゃから。」
お爺さんは小声で囁くように慌てて言う。
「分かった。爺さんや。」
御婆さんは急いで草履を履くと、早足で納屋へと向かった。

 お婆さんは、お爺さんに釘と金槌を渡した。
「はいよ、爺さん。」
「よし、ありがとよ。さて…………。」
「どうするんじゃ?爺さん?」
「こうするんじゃ…………。」
 扉をさっと閉めて御爺さんは言うとすぐさま、金槌を使って釘を扉の打ち込み、こちらの広間と座敷を繋ぐ扉を開かなくしたのだ。引き戸は木製で薄く、閉めると左右の戸の端が互いに重なるように出来ている為、簡単に釘を打って締め切る事は出来た。
「ふう。」
「おのれえ、貴様ら、何をさらすんじゃい!許さぬぞ!」
どうやら、隣室にいた老婆の霊は怒ったようだった。途端に、広間には強い熱気が漂い始めた。
「ひ、ひい!御許しを!」
お爺さんは両手を合わせて祈るようにして言った。
「じ、爺さん。わしら、どうなるんじゃ?」
お婆さんが言い終わってすぐに、霊はこちらの部屋に姿を現した。恐ろしい鬼のような形相でこちらを見下ろすように睨み付けている。
 二人はもう、足が竦(すく)んで、動けそうになかった。
霊はまたも口を開いた。
「よ、よくもおお、わしを閉じ込めようとしてくれたな!じゃが、無駄じゃ。愚か者め。わしは、食う物が欲しかっただけなんじゃ。じゃが、ここに大した物は置いておらんようじゃの。仕方無い。じゃが丁度良いわ、ふぇふぇ。ここを出て行く前にお前達をこの場で食ってやろうかの!」
霊は両手を振り上げて大きく声を上げて言う。
「ひいいいいいいい、それだけを堪忍を!わしが悪かった!次おいでなさる時は、食べる物を沢山用意して置いておきますから!わしらを食べないでおくんなせえ!また近いうちにでもいらしって下さい。」
「そ、そうじゃ、そうじゃ。信じて下せえ。」
お爺さんに続いて、お婆さんも必死で御願いした。二人は土下座をしながら頼み込むように言う。
「ほう、そうかえ。ならばそうしてくれるか。ならばわしは少しの間ここを出よう。今度来る時は、団子でも作っておけえ……さらばじゃ。きっとまた来るぞ……。まだわしの怒りはこれで治まった訳ではないからな。」
こう言うと霊は、閉まったままの玄関から、すうっと透き抜けるように出て行った。

「ふうう、助かったのお…。」
「そうじゃな…。次は気を付けんといかんのう。余程腹をすかせた霊じゃったようじゃ。」
「ご尤もじゃ…ん?婆さんや、何か妙に寒くないかえ?」
「へ?へえ、確かに、ひい、さ、寒いぞい。」
「ほんまじゃ、ほんまじゃ、寒いわい。あの霊が帰ってから、急に寒くなったぞい。こ、これじゃ力も出ん…すぐに小麦粉を持って来て団子造ろうと思っても、これじゃ作れそうにないのう、うう、寒い、寒い、手は特に冷たくてフラフラで動かんわい。一旦布団に入ろう。」
「そうしよう、そうしよう。凄い寒気じゃ、いや、これは冷気と言うものじゃな。」
 あの白い着物の老婆の幽霊がいなくなってから部屋中は、何やら物凄い冷気に苛まれた。
「布団着ておってもまだ寒いのう。これじゃ動けん……。確かにもう年じゃけんど……。」
「何たる事かいな。」
二人は布団にくるまってもまだ身体を震わせている。
「このままこう寒けりゃ、わしらは……ああ…うう…。」
「うう…………。」
「……………………。」
「……………………。」

あれから、二人は二日経っても三日経っても布団から出る事は無く、もう起き上がる元気も出なかったようで、次第に痩せ衰えて行った。十日経つともう二人は冷たくなっていた。そう。二人はこのまま死んだ。
そして二十日経った朝、あの白い着物の老婆の霊が、ここに戻って来た。
「寝ておるんかいな?来たぞい。団子はあるか~~?作っておいたか~~?んんん?」
 そこには、布団を着たままの人間の白骨死体が、二体仰向けになっていた。もう全身が白骨化していて、肉は何処にも無い。
「何じゃ、屍かえ。生きてはおらんようじゃな。そいじゃ、おぬしらもわしの仲間じゃ、仲間じゃ。」
霊はこう言うと、家を出て行った。何処へ向かったのかは分からない。
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