光と風と時の部屋

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学習&ホラー小説「歴史教師と時空の落とし穴」10

「歴史教師と時空の落とし穴」10

 このままここに居ては危険だと、暦は思った。自分は関係無いが、落ちて来ないとも限らない、と思ったのだ。暦は、一気にこの場で心を集中させて手と手の皺を合わせて祈った。ここぞ命ばかりは助けて欲しい、と。
 落雷だ!!暦は時空間の中に吸い込まれた直後、凄まじい音と人の悲鳴のような声を聞いたような気がした。

「クワバラ、クワバラ……。」
と無意識に暦はこう唱えていた。
 どうやら今回ばかり、場所は変わったが、時間は変わっていないようだ。転送しただけで、時間移動は恐らく出来ていない事だけは明らかだった。天気が変わっていない事と、周囲の建物や風景を少し見れば分かる事だった。
 落雷は、向こうの方で幾度か起こっていた。先程の清涼殿の方に違いない、と暦は思った。「御愁傷様です。」と暦はまた手を合わせ、そして拝んだ。
雷の音はどんどん遠さかって行く。ここに落雷が落ちるような気配は無かった。良く見れば、ここは道真の領地ではないのか。それも「桑原」と言う名の道真の領地なのだ。
 そう。ここにだけは落雷が不思議と起こらなかった。その事から、雷避けの御呪(おまじな)いとして、「クワバラ、クワバラ。」と呟(つぶや)くのが流行した。
 道真を心から慕っていた暦を、道真が助けてくれたのだろうか、と暦自身は思ったものだった。
(キャッ!また転移ね!またさっきみたいに場所だけ移動かな?雷が完全に止んでからにして欲しいなあ。嗚呼、それにしましても道真様。心より御慕い申しております。)
 気が付けば、宮殿の屋上?…と言うより寧ろ、………これは宮殿の屋根の上か?
 雨も雷も止みかけだ。目の前に誰かいた!刀を立てている!暦には気が付いていない。
 藤原時平だ。
(時平めぇぇ!この私が許せないわ!よし、ここで道真様に変わって…………えい!えいっっ!)
「ふっ…道真めが……うげっ!ぐぐぐ!ぐるじぃ…ダズゲデ…だ、誰だぁぁあああ!あああああ!」
「このっ!このっ!」
 暦は、右腕で時平の首を思い切り力一杯ぐぐっと締め上げ、左腕で頭部全体を上から被せて覆うように閉め付けている。
「何奴だあ?放せ!止めてくれええ!」
「よくも私の道真様を!ええい!時平!覚悟!身を持って償ええ!」
「ぐげええ!助けてくれぇぇ!く!苦しいよお!げへっ、げへっ。」
(もう、このまま歴史を変えちゃおうかしら…。どうせこの時代の人間じゃないし、この時代にカメラだって無いから、証拠はそう残りはしないし…この時平を、このまま……。)
 やっぱりやり過ぎかな、と思った暦は左足のパンプスを脱ぎ、左手で持ったパンプスを、時平の鼻に押し付ける。
「ひいぃぃ!この匂いは何だよ!酸(す)っぺえよ!酸っぱ臭(くせ)えよ!死ぬ!死ぬ!ごめんよお、俺が悪かった!」
「そう。反省してるんならいいけど、でも、でも、道真様はもう還らないのよ!こいつめぇぇ!」
 パンプスを履き直すと、今度は思い切り時平の頬を抓(つね)る、抓る。
「痛(いて)ええぇぇぇぇ!!」
 平成の美人日本史教師である暦が如何程に鬼の形相をしていようが、罵声を幾らとも浴びせようが、突然後方から締め上げられたままの時平にはこちらの顔が全く見えないのだ。

「もう良い。許してやれ。もう良いのじゃよ。わしはもう大丈夫じゃて。」

(え?)

 気が付けば、暦は、先程の「桑原」に戻されていた。夜明けのようだった。雨は完全に治まっていた。大皿一杯の三色団子と、湯飲みに入った御茶がある。暦は、有難くそれを頂いた。そしてすぐに、巨大な時空間の裂け目が、また現れた。じわじわと暦は吸い込まれて行く。

 ここは?場所は分からない。御寺と良く似た広い建物だ。その敷地内、現代では大きな庭と呼んでいる。ここは屋敷になるのだろう。嘗ての御偉い方が住んでいるに決まっている、と暦は思った。
廊下に座布団を敷いて女性が低い机に向かって座り、何か書き物をしている。取り敢えず近くに行って道ぐらいは聞く事にした。泊めて貰ったりと世話になれば勿論嬉しいのだが、悪いから遠慮したいと暦は思っていた。
「めぐりえひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな。」
(あれは確か、小倉百人一首の……入選した……あ!もしかして?そう!きっと!きっとそうよ!)
 正しく紫式部だ!と暦には分かった。「源氏物語」等を書いた、平安時代中期の女性作家にして歌人でもあった、あの紫式部だ。確か、生没年とかが今でもはっきりはしないのであったと暦はその事も思い出した。ここは、どうやら彼女の暮らしている屋敷だったのだ。(紫式部様…御会い出来て光栄ですわ………。)
 レズではないが、暦はまたもときめく。紫式部も大好きな歴史上人物の一人だった。
「そこにおるのは誰じゃ?何をしておる?」
「こんにちは。私、柊暦と申します。あのう、すみません。……実は……道に迷ってしまって。(ランダムに時を駆けさせられているのだから、時空に迷子になっちゃってるんだけど、ここで本当の事放す訳には………幾ら物分かりの良い聡明な式部様でも…こればかりは………ああーーあ…。)」
「ほほう。そうなのか。御気の毒に。わらわは紫式部と申す。おぬしは何処から来たのじゃ?ここは、藤原北家と言う屋敷じゃ。わらわの生家でもあるぞ。さて、客人は手厚く持て成さなければならぬな。」
「あの私、東京、東京府……いえ、あの、武蔵国と言う所から来たのですが……。」
「ほう、武蔵国か。さぞ遠方から来られたんじゃのう。そちは今日とてもう御疲れではないか?もう夕方じゃ。間も無く日は暮れる。この辺りの夜道も危険じゃ故、良ければ休んで行くか?地図なら幾分かあるから御渡ししてやっても良いぞ。要るか?」
「はい。有難う御座います。紫式部様。」
両手両足をきちんと揃えて、ぺこりと暦は頭を下げる。
「いやいや、礼等良いわ。柊暦殿とやら。」
式部は微笑む。

「ここが客間じゃ。ゆっくり休んで行くと良いぞ。遠慮はいらんからの。」
式部は客間と言われる広い屋敷に布団を広げて準備すると、暦を迎え入れてくれた。
「はい。では、御言葉に甘えさせて頂きます。(当然ながらだけど、空海様の御寺の座敷より数倍広いわね。まあ、御寺と屋敷だもんね。それに、空海様の場合は、修行されていたんだし、広いと落ち着かないわよね。じゃ、休もうかしら。)」
「ふむ。わしは突き当りの部屋で書き物をしておるからの。何かあればいつでも呼んでくれるが良いぞ。」
「はい。御恩に着ます。紫式部様。では、暫く御厄介になります。御休みさせて貰いますね。」
と暦は頭を下げる。
「ふむ。おほほ。そう他人行儀にならなくとも良い。では、失礼。暫し休まれよ。」
「はい。改めて、御恩に着ます。」
と、暦は布団の横に正座し、尚深く頭を下げる。
「うむ。(それにしても、矢張り見慣れん格好じゃのう。一体全体何者なのじゃろうか。悪い人間でない事は、目を見れば分かるようでもあるのじゃが……。あれでどこぞの刺客(スパイ)でなければ良いのじゃが。まあ大丈夫じゃろう。暫く様子を見るとしようか。)」
 こう言うと、式部は襖を静かに閉めると、十二(じゅうに)単衣(ひとえぎぬ)もの厚い和服を引き摺りつつ、部屋を去って行く。着物を引き摺る音が微かに廊下を響かせている。
「ああ、式部様。御休みなさいませ。(それにしても、あれじゃ暑そうだわね。いや、絶対暑いわ。真夏にあれで外なんか出たりしたら、私なんてあっと言う間に日射病だわ。ああぁぁ、見てるだけで暑苦しくなって来るようだけど、式部様だから私は見てて感動する。)」
暦は両手を合わせて、式部にいる方へ向かって拝む。そして、ゆっくりと布団に入って寝る事にしたのだった。
(さて。寝ようかしら。ええと、ショルダーバッグの中にパンプスはちゃんと…入れてあるわね。よし、と。それから、ショルダーバッグは、ちゃんと抱いて寝るように…と。うん。これでよし、と。)
「ふわあ。さっきも寝たけど、緊張して神経を使ったから、またゆっくりと眠れそうね。でも、もし寝ている途中に変な所に時空転移しちゃったら、ヤダなあ……ちょっと不安……。だけど、式部様には大いに感謝、感謝、と。会えて良かったなあ、式部様。私の幸せ幾分を分けて差し上げても良いかも…だって、あのままじゃ私は行き倒れてたかも知れないし……でもこれが夢だったらどうしよう…ううん、そんな筈ない…わ。…そんな…筈…。すやすや。」
ごちゃごちゃ考え巡らしつつも、いつもより心身の疲労があってか、暦は眠りに付く事が出来た。

「あら、ここはどこかしら?私、起きてるの?やっぱり、寝てるのかな?ぼうっとするような、しないような?不思議な感覚ね。微かに頭痛いし。夢の世界かしら?さあ?」
 その時だ。
「んっ?!うわあ、な、何?!何なの……。」

「へい!彼女!俺と一緒に大暴れしようぜ!どうだい!はっはっ!!ふふはは!!」

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