光と風と時の部屋

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学習&ホラー小説「歴史教師と時空の落とし穴」8

「歴史教師と時空の落とし穴」8

(何?何?次から次へと移動になってるけど、御寺ばっかり??)
 一分ごとに次々と移動している。色々な御寺場ばかり回っていた。
 その旅に熱心に御経を唱えたり書き物をしたり座禅をしている、偉そうな感じの一人の御坊さんに会うのだ。なかには見覚えのある人にもあった。
 今、暦は山の頂上に近い場所にいる。御寺が見えたので、そこを目指して歩く。そう言えば、全部で六人の御坊さんに会ったのだ。ここで、「もしや?」と暦は思った。
 六人の御坊さんと言う事は、鎌倉文化の仏教を次々と新しく開いて行った歴史上の偉大な人物に当たるのではないか。先ず、浄土宗は法然。専修(せんじゅ)念仏を唱えられている。次に会った人物については、暦は顔も覚えていた。浄土真宗を開いた親鸞だった。あれは間違い無く親鸞だ。親鸞は、悪人正機説と言う物も説いている。順番通りであればの話だが、次は多分、時宗を開いた一遍なのだろう。顔はよく知らなかったが、恐らくそうだろうと思った。以上は、浄土真宗系の他力本願の仏教になる。次に会ったのは、臨済宗栄西、それから曹洞宗道元、そして最後は、法華宗の、日蓮だ。これはよく分かる、この人はよく知っている、と暦は思った。
日蓮は、題目・即身成仏、そして『立正安国論』と言う著書も出されている。これは流石の暦でも、図書館で立ち読みぐらいしかしていない
 暦が御寺に着くと、焚き火をしている住職らしい人を見付けた。多分、院主は彼なのだろう。良く見ると、空海だ!間違い無い!空海と言う事は、ここは高野山だったのか。空海は、高野山(こうやさん)に寺を開いたのだ。延暦寺(えんりゃくじ)である。真言宗と言う仏教だ。こちらは、密教で加持祈祷が中心になる。天台宗の方だと、金剛(こんごう)峯寺(ぶじ)の最澄になる。
 ここぞ即ち、平安時代と言う事になる。弘仁・貞観文化と言い、まだ平安時代初期の頃の文化になる。律令再興の気運を反映した唐風文化だ。時を駆けてまで、当時代のものを生で見てはやっぱり違う、と暦はこう思った。
 暦は空海に、一応、道に迷ってしまいましたと告げると、今晩はここに泊って行きなされ、と言ってくれたのだ。御堂の中まで案内して貰うと、空海は御茶と饅頭と座布団を用意してくれた。
「ほほう。そちは、名は暦と申すのか。良い名じゃのう。」
弘法大師こと空海は暦に言う。
「有難う御座います。……ふわぁぁ……。あ、すみません。」
と暦は欠伸をする。
「ん?そちはもう眠いのか?長旅等で疲れておるようなら、布団はすぐに用意出来るぞ。まだ夕方じゃが、休むか?夕食までには時間があるからの。」
「はい。疲れてますので、では御言葉に甘える事にします。(会うまではどんな人かと思ってたけど、本当に会ってみると、とても素敵な方かも。ま、好みは人それぞれよねね私としては、タイプかなあ。ポッ。)」
 空海は広くて綺麗な部屋まで案内してくれた。空海も、暦の事を好きになったのだろうか?まあそこは関係無いかとして、暦は早速休む事にした。
「夕食まで、ゆっくり休むが良いぞ。」
「有難う御座います。感謝致します。空(くう)……いえ、弘法大師様。では私は少し休みますね。ここで一晩、御世話になります。」
「ほう、そうか。では暫し休まれよう。喉が渇いたなら御茶はあるでな。気に召したのなら暫く居ても良いのじゃがな。では戸を閉めるぞ。ゆっくりとな。」
とこう言うと空海は襖を閉めて去って行く。足音がしなくなったところで、暦は布団の中でうとうとし始める。暦はぼちぼち休みたかったのだ。まだ時空転移しないのが有難い。
(御風呂があったなら、足ぐらいはちょっと洗いたいなあ。少なくとも井戸はあるわよね。着替えは全然無いけど、体は洗いたいなあ…………。)
 夢現(ゆめうつつ)の中、色々考える暦であった。
(羊を数えて眠れたタメシは無いから、…ええーーと………聖武天皇時代の天平文化では、編纂されたのが、『古事記』、『日本書紀』、『風土記』、それから『万葉集』…………と。その頃の仏教は、鎮護国家思想に基づき仏教を保護した南都六宗。それは三論宗・成(じょう)実(じつ)宗・法相(ほっそう)宗・俱舎(ぐしゃ)宗・華厳(けごん)宗・律宗ね。)
 それにしても、落ち着く場所である。もう少しで眠りに着ける。時空転移はいつするか分からないので、暦は勿論、脱いだパンプスはショルダーバッグの中へ入れていた。
(やだなあ。バッグの中、臭くならないかしら。人に嗅がれたら、折角の清楚なイメージも台無しになっちゃうわ。…………六四五年、大化の改新…六四六年、改新の詔(みことのり)…孝徳天皇が発布…六六八年、庚午年籍…六七一年、壬申の乱…七○一年、大宝律令…七一八年、養老律令…七二三年、三世一身法…七四三年、墾田永年私財法…。すやすや。)
 以上は、特に睡眠学習と言う訳ではなく、覚えていた事を色々思い出していたのだ。そう、学者の心理研究によれば、何か学習して覚えたならその内容を一~二時間後に思い出すなりしていれば、忘れ難くなる、よく頭の中にインプットされて良いと分かったのだと言う。それも、睡眠学習の内に入るらしい。眠りながら思い出す事も出来るのだから。食後二時間後や、眠る前に勉強すると、それも頭に入り易いらしい。脳が眠っている間は記憶され易いそうなのだ。
 起きると、外は暗くなっていた。空海が部屋に入って来る。
「丁度良いな。起きておったのか。夕食の準備が出来たぞい。すぐに召し上がるか?」
「…はい………。」
 眠い目を擦り、櫛で髪を解き直しつつ、暦は食事部屋へ招かれた。
 御飯と味噌汁と梅干しと魚だ。大き目の急須と一緒に、湯飲みには深蒸しされたような濃い目の緑茶がある。
「これだけなんじゃよ。少なくてすまぬが、召し上がると良い。わしは精進中でな。即ち申せば、修行中なんじゃよ。わしは朝のみおかずとして小さ目の魚を食ったがの。そちは、しっかり食べると良いぞ。御客は丁重に持て成さねばなるまい。人を救うのが仏の道。」
空海の御膳は、見れば少量の米と味噌汁と梅干しだけで、おかずは無い。
「はい。感謝致しております。では、頂きます。」
 暦は両手を合わせてじっくり合掌すると、そろそろと咀嚼(そしゃく)し始めた。そして空海の方も咀嚼し始める。
 食事が終わると、暦は空海に言ってもう一度寝室で休ませて貰う事にした。
 また寝室に行って、暦は再び布団の中で横になった。庭に井戸もあるから、水が飲みたい時、体を拭きたい時などはいつでも仰ってくれれば良いと空海は暦に言った。
 勿論、寝る時はショルダーバッグは首に掛けたまま両手に抱いて寝るのだ。
 もう夜中になっただろうか。御経が聞こえる。空海が稽古中だろうか。暦は覗きに行った。平成時代から持って来た腕時計なんてここではあてにならない。それは自明の事だと承知していたので、暦は室内を見回す。案の定、襖の上には時計が掛けられてあった。どうやら、午前一時半頃らしい。丑三つ時が近い時刻になる。
 空海のいるらしい御堂へ行くと、空海は熱心に御経を唱えていた。空海でも覚え立てなのだろうか?とこう考えた。その時、暦はまた不思議な感覚に捉われた。下半身がすうすうして来た。御別れの時間になったと、暦にはすぐにそれが分かった。
「さようなら。空海様。さようなら。弘法大師様。色々あるでしょうけれど、頑張って下さい。この御恩は一生忘れません。」
と暦は小声で囁いた。
 そして心の中で、繰り返しこう唱える。

 いろはにほへと ちりぬるを わかよ たれそ つねならむ
 うゐのおくやま けふこえて あさき ゆめみし ゑひもせす

 時空の狭間をまたまた越えて行く。果たして次は何処へやら…………………………。

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