光と風と時の部屋

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小説「地球(せかい)の終焉(おわり)に〜天の邪鬼(あまのじゃく)とガルーダ〜」

 あれから〇千万年後、とうとう人類の血は途絶え、地球は氷河期となり、海の水さえもほぼ全て凍り付き、全てが流氷の海と化していた。更に○億年後には、他のありとあらゆる屈強な生物さえも生活出来なくなり、ついに絶滅を迎えて、世界の終りが近付こうとしていた頃の事。
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 全ての神も仏もこの世からは完全に姿を消しており、異次元で眠りに付くようになっていた。もう自然を自然とは呼べない無秩序の地となっていた。
しかし、まだ残る者はあった。そいつは、「天(あま)の邪(じゃ)鬼(く)」と言う名の鬼だった。暫く氷河期の大地を天から見下ろした後、地上から天へ昇り、惑星を目指して広い宇宙へ出ようとしていたのだ。
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 天の邪鬼は、月へ向かっていた。ある物を存分に飲む為に…………。
 そう。天の邪鬼は、本来のただの下級鬼ではなくなっていたのだ。天の邪鬼は、この世の神の最高位である「天(てん)の帝(みかど)」をいつの間にか暗殺し、神の座を奪っていたのだ。いつ頃からなのかは定かではない。何百世紀かが過ぎて科学の終焉を迎える頃、人々の心は荒み、性質はと言えばまるで天の邪鬼だった。この世の神様がまるで天の邪鬼では、等と言う会話を交わす人達はもっと早くからいたようだが。「努力も無駄であり、善も悪も最後には抹消される。太陽の下(もと)に新しいモノは何一つ無い。逞しい人間もいない。人間、動物と息とし生ける者は皆弱い。格好良い男も美しい女も本当は存在しないのだ。」と言って恋愛も結婚する事さえ放棄する人間や動物が続出していた。
まさか 本当に神様が天の邪鬼様となっていたとは、人々は知る由(よし)もなかった。
毘沙門天に叩きのめされ、踏み付けられていた下級鬼の天の邪鬼は、隙を見て逃げ出し、そのまま天の帝様の元へ向かったのだろう。そこで天の帝様を…………。
天の邪鬼が、実は一番利口な奴だった!?と、こんなケースもどうやら在り得るようだ。だが、これで終わって良いものか。
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 宇宙空間を泳ぎ、月へ向かう天の邪鬼を、仰天する程の速度で飛んで追い掛けて来る者があった。
 そう。それは、ガルーダと言う聖(せい)鳥(ちょう)だった。別称してカルラとも呼ぶらしい。嘗てよりインドの神(しん)鳥(ちょう)であり、三大神の一角ヴィシュヌ神の乗り物としても活躍した。ガルーダは、鷹の頭、鉤爪、翼と嘴を持ち、胴体だけは人間と言う姿を持つ。ヴィシュヌが太陽神である事から、ガルーダもまた太陽鳥と呼ばれた。その名が示す通り、ガルーダは嘗て太陽を黄金色の翼に乗せ、東から西へと大空を運んでいたとされる。邪悪なナーガ族を追い払う聖鳥としても知られていた。
 そのガルーダ(カルラ)は、何千万年もの長い眠りから目覚め、この世界最後の邪悪を打ち払おうとしていた。
「天の邪鬼よ!」
「むむ、貴様は、ガルーダ!」
「矢張り、月へ向かっていたのか。」
「よく解ったな。くっくっくっ。だが、一足遅かったようだな。」
天の邪鬼は、小瓶を取り出した。中には、銀色のトロンとした感じの液体が入っている。
「そ、それは、月の生き血!!」
「その通りだ。巨大隕石により出来た大穴を通り、月の中心部で見付けた物だ。ヘッヘッヘッ!これを、こうする、と!」
その月の生き血と言われる物を一気に飲み、月や地球、木星等、太陽系の全ての惑星に負けない程の巨大な身体の鬼に姿を変えてしまった。
「はああっはっはっはっ!見たか!!俺の史上最強最大の姿と言って良かろう!これで俺は全てを手に入れたのだ!宇宙の全てをな。見よ!この誰よりも屈強な巨体と、この何処へでも飛んで行ける逞しい不死身の翼!そしてこんなにも強い力を!こんなにも賢い知力を!俺はこの宇宙の全てをついに手に入れたのだ!くっくっ。ガルーダよ、御前も一緒に月の中心まで行って見ぬか?じゃが、御前なんぞに月の生き血を吸わしてはやらぬがな。」
流石に、これではガルーダ独りでは太刀打ち出来そうになかった。他の神や仏は、地球に戻ってももうこの次元にはいない事も承知していた。
「行くぞ!!」
天の邪鬼は超強力な風の力を放ち、衝撃でガルーダは太陽系の惑星から離れる所まで吹き飛ばされた。このままでは一つの惑星どころか、宇宙がどうなってしまう事やら。
「ついに、ついにこの時が来たようだな。まだ終わってはいないぞ!天の邪鬼!」
ガルーダの叫びは宇宙中に響く様子だったが、天の邪鬼は口笛を吹いて全然余裕そうにしている。
「我が友、太陽よ!!」
ガルーダは、太陽の近くでこう叫んだ。
「むむむ、ガルーダめ、またこちらへ向かうのか。今度はこの焦熱で焼き払ってやろうか。それとも全てが凍て付くこの波動でかちこちに凍らせてやろうか。」
ガルーダは、全身全霊を最後の力として振り絞り、再び太陽を両手で抱え上げたのだ。
「天の邪鬼!覚語!!!」
その太陽を、ガルーダは全霊を込めて天の邪鬼目掛けて投げ付けると、投げ終わる頃にはガルーダの身体は崩れ掛けていた。
「なぬ!!う、う!!う、う、う、う、う、うおああああああああっっ!!!ぐごごぐわあああああっっ!!!!!」



天の邪鬼は骨も微塵も残さずに消え去った。邪神・天の邪鬼は滅び、これで本当の地球の終りが来る。
ガルーダは、自分の身体がこの空間から消えて別次元へ行く前に、太陽を元の場所に戻すようにして移動させた。だが、若干は地球から離れ、火星にも近くなった位置だった。終わった後、もうガルーダは動ける力さえ残ってもいないようだった。
「これで総てが完了したな。きっとまた、皆会えるな。ああ、会える。次はあの星だ。」
カルラは言い残すと、そのまま地球の上に来て別次元へと姿を消し、この太陽系の惑星の周りには誰一人として生ける者はいなくなった。
 その頃は、丁度火星の地球化が始まろうとしていた頃だった。

……と言うのは、真っ赤な嘘である!!

地球が火星化すると言うその理論は、実は間違っていたのだ。本当のところ、火星は地球のようにはならない。
「やがてこの地球と言う惑星が終末を迎えた後には、お次は火星が、まるで地球の生まれ変わりのような星に変わって、そこで同じように新たな人類が誕生したりと言うところでしょうか?地球が火星という惑星へ特化と言うところでしょうか?」
と言う具合によく色々なところで談話が交わされていた事もある。
しかしそれは有り得ない。地球と火星の大きな違いの一つに、地球にはプレートテクトニクスがあり、鉱物として地下に蓄えられた二酸化炭素を、再び大気中に戻すという現象があるため、温暖化ガスによる気温の維持が可能なのである。しかし、プレートテクトニクスは地球以外のところでは観測されていない。火星では、二酸化炭素が一旦は鉱物として地下に閉じ込められると、ほとんど地上に復帰することはなく、地下に閉じ込められたままなので、温暖化ガスによる気温の維持効果が期待出来ないとも言われていた。
火星に人類が生存出来る、火星地球化(=テラフォーミング)というのは、SFに始まり、長年研究者が真面目に議論もしていたそうだ。
「○○年までに人類を△△へ送りこむ」という計画も、確かにあった(○は分からないが、△は月や火星だ)。しかし、計画は計画であった。それは実行されなかった。
火星の場合、大気より、電離層の生成が「極めて困難」と判断しているので、人類が住む事は難しい状態だと考えられてもいた。
  実は、地球から六十三光年の距離に「がか座ベータ星」と呼ばれる恒星がある。この星は”チリの円盤を持つ星”として初めて観測された。太陽系が誕生した時の状況にソックリで、もしここに新たな惑星系でも誕生すれば、第二の地球が生まれる可能性もあるとして注目されていたのだ。但し、更に後数億年以上経過しないと第二の地球が生まれない。第二の地球の誕生が始まるのは、まだ何億年か先の話なのである。

                完